湖畔の左へ

生活するために書くブログ

2019-01-01から1年間の記事一覧

表現の不自由について

表現の不自由展、とても面白い。その中身は実はほぼ知らないが、ネットの隙間からのぞき見ていると、表現をめぐって現代日本の姿があぶりだされていき、表現の不自由そのものを現実に召喚する魔法陣のごとき謎の力を発揮している。 表現はすべて暴力に還元で…

異世界生活系物語を考える件⑤(または光)

異世界生活系物語のことを常日頃考えている。異世界というバッファを設けて本当に語りたい私たちの「生活」とは何なのか。自然に入り込むことのできる懐の深い物語群の力が弱まった現代にあって、私たちは、あえて物語ろうと努力し、不格好に前に進んでいか…

暗闇

京アニ放火への悲しみが尽きない。自分の魂の一部が損なわれたようだ。彼らが作るはずだった未来、かなり高い確率でこれから生まれるはずだったまったく未知の作品たちが、幻のように掻き消えてしまった。物心ついてから、自分に近い人が死んだことがないが…

異世界生活系物語を考える件④

ついに「Re:ゼロから始める異世界生活」のアニメを観た。思っていた以上に面白く、心に刺さった。ただ面白おかしいだけでなく、今生きる人間を救い得る力をもった、素晴らしい物語だった。「リゼロ」の物語にかなり魅了されてしまっていて、冷静ではないかも…

異世界生活系物語を考える件③

転生して、別世界でチート能力を使って愉快に暮らすような物語は、現実逃避的ではないか、という批判未満の感情が増田あたりに渦巻いているのを感じた。私からすると、その見方はもったいないなと直感していて、異世界生活系物語の魅力はまだ誰にも掘り起こ…

異世界生活系物語を考える件②

異世界とは何だろう。かつては、海の外にあるよその国とイコールであったろうが、強力な移動手段や情報交換方式を得た現代では、外国の異世界性は大分薄まっている。もちろん、実際に行ってみれば相当に異世界なのだが、時間とお金をかけて頑張れば、なんと…

異世界生活系物語を考える件①

なぜか気になる異世界生活系。なぜ魅力を感じてしまうのか、要素を抽出したくなる。まず名付けをしたくなる。物語の新しい形式の産声をまさに今聞いているような心持ちがしている。この新しい動きも、またすぐに潰えるのかもしれないと、賢く成り下がった大…

佐藤春夫『海の若者』解説

『海の若者』 佐藤春夫若者は海で生れた。風を孕んだ帆の乳房で育った。すばらしく巨くなった。或る日 海へ出て彼は もう 帰らない。もしかするとあのどっしりした足どりで海へ大股に歩み込んだのだ。とり残された者どもは泣いて小さな墓をたてた。 佐藤春夫…